[過払い金] 破産者への優先弁済権を確認する裁判

本件
場合
腫瘍

主文

1破産者有限会社Aが鹿児島地方裁判所平成11年(ヨ)第113号債権仮差押命令申立事件につき供託した担保(鹿児島地方法務局平成10年度(金)第407号)について、原告が、200万8765円及びこれに対する平成13年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の損害賠償請求権に基づき、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有することを確認する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

破産者有限会社Aが鹿児島地方裁判所平成11年(ヨ)第113号債権仮差押命令申立事件につき供託した担保(鹿児島地方法務局平成10年度(金)第407号)について、原告が、301万3418円及びこれに対する平成13年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の損害賠償請求権に基づき、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有することを確認する。

第2事案の概要

本件は、不当な債権仮差押命令の執行により仮差押解放金の供託を余儀なくされ損害を受けたとする原告が、その後仮差押債権者が破産宣告を受けたことから、その破産管財人に対して、仮差押債権者が立てた担保について当該損害賠償請求権に基づく優先弁済権を有することの確認を求めた事案である。
1基礎となる事実
(1) 当事者等
原告は、菓子卸売業、菓子製造業等を目的とする会社である。
破産者有限会社A(以下「A」という。)は、建築請負及び設計施工、不動産取引業等を目的とする会社である。
同社は、平成12年8月9日、破産宣告を受け、被告がその破産管財人に選任された。(甲4,弁論の全趣旨)
(2) 不動産売却仲介契約の成立
Aは、原告から、平成9年9月下旬10月ころ、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の売却仲介の依頼を受けた。
Aの取締役営業部長で、本件土地の仲介案件を担当していたBは、C市町村職員共済組合(以下「共済組合」という。)が宿泊施設建設のための用地を探しているとの情報を得て、共済組合から用地取得を依頼されているというDの代表者Eに接触し、同年11月19日、原告に対して買主側の仲介者としてEを紹介した。
このようにして、そのころ、Aと原告の間で、本件土地の売却に関する仲介をAに委託するという契約(以下「本件仲介契約」という。)が成立したが、本件仲介契約について契約書が取り交わされることもなく、また、具体的な報酬額の取り決めもされなかった。(甲3,4,乙2,5,弁論の全趣旨)
(3) 原告による本件仲介契約の解除
原告の当時の部長のF(以下「F部長」という。)は、遅くとも平成10年6月10日までに、Bに対して口頭で本件仲介契約解除の意思表示をした。
(甲1の1,4,弁論の全趣旨)
(4) 不動産売買契約の締結
平成10年12月25日、原告と共済組合は、本件土地について、不動産売買予約契約書を作成し、共済組合は原告に予約金として3億円を交付した。
 平成11年2月に入り、原告と共済組合の間で、売買契約書の内容や売買の日程、本件土地上の建物の解体等の問題について協議・交渉し、同年3月19日、共済組合と原告との間で、売買代金19億8000万円で本件土地の売買契約(以下「本件売買契約」という。)が成立し、同月30日、本件土地の引渡しと残代金の支払が行われた。(甲24,争いのない事実)
(5) 報酬金請求訴訟の提起
平成11年2月3日、Aは、原告に対し、原告は、本件土地の買受希望者が共済組合にほぼ確定し、後は立退交渉や通常予測される売買契約締結交渉のみを残す段階になって、仲介報酬の支払を免れるため、故意にAを仲介業務から除外し、本件仲介契約の条件の成就を故意に妨げたものであるとして、民法130条に基づき、報酬金6000万円の支払を求める訴えを提起した。
(甲4,乙3)(6) 債権仮差押命令の発令等
平成11年3月25日、Aは、原告に対し、本件仲介契約に基づく6000万円の報酬金請求権を被保全権利として、本件売買契約に基づく代金請求権に対する債権仮差押命令の申立てをした(鹿児島地方裁判所平成11年(ヨ)第113号債権仮差押命令申立事件)。
裁判所はAの申立てを認め、翌26日、第三債務者である共済組合に対して債権仮差押命令(以下「本件仮差押命令」という。)が送達された。
同月29日、原告が仮差押解放金6000万円を供託し、本件仮差押命令の執行は取り消された。(甲7,乙1,争いのない事実)
(7) 報酬金請求訴訟の結果
平成13年5月23日、上記報酬金請求事件の判決がされ、原告は、報酬金1485万円及びこれに対する平成11年2月14日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を命じられた。
当該判決において、裁判所は、本件仲介契約解除時の状況等を考慮すれば、原告はAの仲介によって間もなく契約が成立することを熟知して故意にその仲介による契約の成立を妨げたものと認めることはできないとして、主位的請求原因である民法130条による報酬金請求は認められないとしながらも、Aの仲介行為と本件売買契約の成立との間には相当因果関係が認められるとして、予備的請求原因である信義公平の原則に基づく報酬金請求を認め、売買代金19億8000万円について宅地建物取引業法46条に基づく建設大臣告示に従って計算した最高額である5940万円の4分の1に当たる1485万円の支払義務があるとした。
原告、被告とも当該判決に対して控訴をせず、判決は確定した。
(甲4,弁論の全趣旨)2争点
(1) 本件仮差押命令の申立てについての違法性の有無
(原告の主張)
本件仮差押命令の申立ては、原告・共済組合間の本件土地の売買を妨害するため、故意にされたものである。
仮に、故意が認められないとしても、本件仲介契約の解除に至る事情を考慮すれば、Aには6000万円の半額以下の報酬金請求権しかないことが明らかであるから、敢えて6000万円の請求権があると主張して本件仮差押命令の申立てをしたことについて、A側には過失がある。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
不動産売買の仲介報酬額の決定に関しては様々な見解・解釈に基づく裁判例があり、不動産取引界において3%の仲介手数料が通常採用されていることを前提とすれば、本件において裁判例の主流である民法130条に基づいて6000万円の報酬金請求権があるとして本件仮差押命令の申立てをしたことについては、A側に過失は存しない。
(2) 原告の損害の有無
(原告の主張)
原告は、共済組合側から仮差押解放金の供託による執行取消しを強く求められたため、6000万円の供託を余儀なくされ、平成11年4月1日以降、供託した6000万円の資金の使用ができなかった。
その後原告は、同年8月1日、会社の資金運営のため、3億5000万円を超える資金を金融機関から借り入れたが、このうち少なくとも4500万円については、過大な本件仮差押命令の執行がなければ、借入れの必要はなかった。
したがって、原告は、過大な本件仮差押命令の執行により、4500万円に対する平成11年8月1日から仮差押解放金の払戻しを受けた平成13年6月26日までの金利相当額として、別表及び別紙計算書記載のとおり、合計301万3148円の損害を受けた。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
原告が仮差押解放金を供託して執行取消しを受ける必要はなく、また、本件仮差押命令の発令当時、原告に3億5000万円を超える資金需要が生じることについての予見可能性はなかったから、本件仮差押命令の執行と仮差押解放金の供託による原告の金利負担との間には相当因果関係がない。

第3争点に対する判断

1本件仮差押命令の申立てについての違法性の有無(争点・)
原告の主張は明確ではないが、本件仮差押命令に関して、1主位的には、原告・共済組合間の本件土地売買の妨害を目的として、悪意をもって申し立てられたものであるとし、2予備的には、本件仲介契約の解除に至る事情を考慮すれば、Aには6000万円の半額以下の報酬金請求権しかないことが明らかであるから、6000万円の報酬金請求権を有するとして申立てをしたことにつき過失があるとするもののようである。
そこで、まず、原告の主位的主張について検討する。
証拠(甲4,5,7,1315,乙13)によれば、Aは、本件仲介契約が解除されたことから、原告に対して、仲介契約復活のための話合いに応じるよう求めるとともに、要請に応じなければ原告・共済組合間の本件土地売買の妨害行為に及ぶことをほのめかす言動を繰り返していたことがうかがわれる。
しかしながら、前記のとおり、Aは、本件仮差押命令の申立てに先立ち報酬金請求訴訟を提起しているのであって、本件仮差押命令の執行により本件土地の売買が頓挫すれば、当該訴訟に勝訴して報酬金の支払を受けることも困難になるのであるから、本件土地の売買を妨害することはA自身にとっても不利益な行動であると考えられる。
さらに、平成11年当時、原告が赤字子会社の対策に苦慮していたこと(甲8)、本件土地についても共済組合のため
の仮登記が経由されていたこと(乙5)、本件土地売買代金以外には仮差押えの対象として適当な資産が見当たらないこと(乙2,弁論の全趣旨)などの諸事情も考慮に入れれば、報酬金請求権の保全のため本件仮差押命令を申し立てるということは、十分に合理的な行動といえるから、本件仮差押命令の申立てが本件土地の売買の妨害を目的としたものとまでは認めることができないというべきである。
次に、本件仮差押命令の申立てに関するAの過失の有無について検討する。
前記のとおり、Aは、平成11年2月3日、本件土地の買受希望者が共済組合にほぼ確定し、後は立退交渉や売買契約締結交渉のみを残す段階になって、原告が仲介報酬の支払を免れるため、故意にAを仲介業務から除外し、本件仲介契約の条件の成就を妨げたものであるとして、民法130条に基づき報酬金の支払を求める訴えを提起し、同年3月25日、同様の請求原因事実に基づき、本件仮差押命令の申立てをし、その後、報酬金請求訴訟において、予備的請求原因として信義公平の原則に基づく報酬金請求の主張を追加している。
しかし、証拠(甲4,810,1720,乙14)によれば、原告がAに対して仲介契約の解除を伝えた時点では、共済組合との本件土地の売買は、共済組合内部の建設委員会の内定は出ていたものの、売買代金については一応の合意はされていたが更に鑑定が必要であり変更もありうるといった程度の合意であって、売買契約の時期を含めておおよその売買代金額以外の条件は全く未定であり、本件仲介契約が解除されることなくAがそのまま仲介行為を続けていれば、間もなく売買契約が成立するという状態ではなかったと認められる上、1原告が本件土地の売却についての回答期限と聞かされていた平成10年1月末になっても何の音沙汰もなく、同年5月ころになっても売買契約の時期について目処がつかない状態が続いていたこと、2売買契約の見込み
についてのBの話と共済組合側の話に重大な食い違いがあることが発覚したこと、3共済組合から当初の売買希望価格より1億円の値下げを要求された際も、原告の代理人であったBは原告に有利となるように共済組合と交渉しようとしなかったため、F部長が直接共済組合側と交渉したものの、結局、共済組合側の要求をそのまま受け入れることになったこと、4Bに対してGの立退交渉に加わるよう要求したにもかかわらず、Bは立退交渉には一切関与しようとしなかったことなどから、原告は、Bの仲介業務や態度に不信感を抱き、Aとの仲介契約を解除するに至ったものと認められ、これらの事情を総合すれば、原告が報酬金の支払を免れるために本件仲介契約の条件成就を故意に妨げたとは認めることができないというべきである。
そして、上記諸点に加えて、本件仲介契約においては面積約1750坪、価格約20億円である本件土地の買主を探すこと自体がかなり重要な価値を有していたものではあるが、1売買価格についてはAと共済組合との間で原告の意を汲んだ交渉がされたとはいえないこと、2仲介契約解除の時点では、本件土地の売買は不確実で価格についても確定しておらず、本件土地売却と密接に関連するGの立退時期・条件の交渉は未だ難局にあったこと、3平成10年8月末の共済組合からの白紙撤回を契機として、原告側が共済組合の理事長や副理事長等の上層部に直接働きかけたことが売買契約の話を前進させることになったこと、4共済組合と原告の間で売買の時期、手付金、契約書の内容、本件土地上の建物の解体・更地化、温泉掘削許可申請に関する手
続、境界線の説明について度重なる交渉がされるなど原告のかなりの努力により本件土地の売買契約が成立したと認められること、5Aと原告との間では報酬額について合意がされていないことなど、報酬金請求訴訟の判決で認定された諸般の事情を考慮に入れると、不動産取引業者であるAとしては、不動産売買の仲介報酬額の決定に関しては様々な見解・解釈に基づく裁判例があり、不動産取引界において3%の仲介手数料が通常採用されていることを前提としても、なお、本件仮差押命令の申立ての時点において、原告に対して請求し得る報酬額は、売買代金を19億8000万円として前記建設大臣告示によって計算した最高額である5940万円の約2分の1に当たる3000万円を超えることはないと判断すべきであったと認めるのが相当であるか
ら、これを大幅に超える6000万円もの報酬金請求権を有するとして本件仮差押命令の申立てに及んだことには、超過部分3000万円について過失があるというべきである。
2原告の損害の有無(争点・)
債権仮差押命令の申立て及びその執行が債務者に対する不法行為となる場合において、債務者が仮差押解放金を供託してその執行の取消しを求めるため、金融機関から資金を借り入れ、あるいは自己の資金をもってこれを充てることを余儀なくされたときは、仮差押解放金の供託期間中に債務者が支払った借入金に対する通常予測し得る範囲内の利息及び自己資金に対する法定利率の割合に相当する金員は、上記不法行為により債務者に通常生ずべき損害に当たると解される(最判平成8年5月28日・民集50巻6号1301頁参照)。
前記認定判断並びに証拠(甲4,7,16の1,16の2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は共済組合側から仮差押解放金の供託による執行取消しを強く求められたため、仮差押解放金6000万円の供託を余儀なくされ、当初は余裕資金をもってこれに充てたこと、平成11年8月1日原告は資金運営の都合上3億5000万円を超える金銭を金融機関から借り入れたが、このうち少なくとも3000万円については、過大な本件仮差押命令の執行がなければ借入れの必要はなかったことがいずれも認められる。
したがって、原告は、本件仮差押命令の執行により、3000万円に対する平成11年8月1日から仮差押解放金の払戻しを受けた平成13年6月26日までの金利相当額(現時の経済情勢にかんがみれば、当該利息は通常予測し得る範囲内と認められる。)として、次のとおり、200万8765円の損害を受けたものと認められる。
3,013,148×(30,000,000÷45,000,000)=2,008,765(1円未満切捨て)3まとめ
以上によれば、原告は、不法行為に基づき、損害賠償金200万8765円及びこれに対する民法所定の遅延損害金の請求権を有しているが、このうち、破産宣告以前の利息相当額及びこれに対する遅延損害金は破産債権であり、宣告後の利息相当額及びこれに対する遅延損害金は財団債権と考えられる(破産法47条4号)。
原告は、これらの損害賠償請求権に関して、本件仮差押命令の担保として供託された金銭について、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有しており、このことは破産宣告後であっても変わることがない(最決平成14年4月26日・判タ1097号274頁)。
この権利は、破産債権に関する部分については異議なく確定した旨の記載のある債権表又は債権確定訴訟の確定判決により、財団債権に関する部分については給付訴訟等の確定判決により、優先弁済権の存在を証明して還付を受ける方法により行使し得ると解すべきであるが(破産宣告によって担保権利者の有する還付請求権は何らの影響も受けない。
前掲最決及び最決平成13年12月13日・民集55巻7号1546頁参照)、担保権利者の有する優先弁済権が別除権に類する性質を有していることにかんがみれば、破産手続によらないで権利を行使することも認められるべきであるから、本件のように優先弁済権の存在を確認する判決によりその権利を証明して供託金の還付を受けることも可能というべきである。

第4結論

よって、原告の請求は、損害賠償金200万8765円及びこれに対する不法行為後の日である平成13年10月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各請求権に基づく優先弁済権の確認を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、主文のとおり判決する。

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